京都の印刷会社 | 土山印刷株式会社

京都の印刷会社 土山印刷株式会社

JAGAT info 2009年8月号

経営者インタビュー [ JAGAT info 2009.8 ]
掲載
JAGAT info
発行年月:2009年8月
掲載記事 PDFデータpdf

21世紀型ビジネスを目指して
「工場」と「営業」の発想の転換

2011年に100周年を迎える京都の老舗企業の3代目社長である土山雅之氏はデジタル化の波が怒とうのように押し寄せた1994年に入社した。
それから15年、土山印刷は21世紀型企業に生まれ変わった。

【損益管理のない企業風土に危機感】

 企業は時代とともに変化しなければ生き残れないが、印刷はあまりにも受動的で、お客様任せではないか。先代まではそのことがうまい経営であったのかもしれないが、これからは難しい。もっと能動的でなければならないと話す。
 お客様にすべての情報があり、印刷側には指示情報だけである。そんな中で、印刷がいくらがんばって独自化、差別化といっても独りよがりになって、実はお客様と連携できないでいるのが実態ではないかと。なぜなら、同社の大手のお客様の宣伝印刷物費は明らかに漸減している。短期的には経済状況が悪いこともあるが、マスからダイレクトへ、あるいは印刷からウェブ、携帯電話へと明らかに市場の変化が起こっており、先を見据えて、市場の見直し、製品の見直しをポリシーをもって進めていかないとダメになってしまう。ここ数年、改革に取り組んできたのもそのような認識による。

 土山氏は大学卒業後、パナソニック(当時の松下電器産業)に入社、人事畑を歩んできた。パナソニックの社風である「一人ひとりが経営者たれ」という松下幸之助氏の教えは今でも心に刻まれている。いち担当者であっても経営感覚が必要であると常々言われたが、土山印刷に入社後最も驚いたことは、損益管理の考え方が全くないことだった。
 1年の締めの1ヶ月前になっても、利益が出ているのかどうかがわからない。管理畑を歩んできたから余計に危機感を募らせた。まずそこからの改革であった。得意とする部分から取り組み、3年ほどで月次管理まではできるようになったが、それを基に見積もりや個別の得意先管理にまで広げることができたのは6年ほど前からという。

【抜本的見直しから「土山ブランド」が生まれる】

 改革にはいい面ばかりではなく常に厳しい側面もある。ガタガタした時期もあったが、それをきっかけにがんばろうという結束が生まれた。経営としても本社の移転と言う大きな生まれ変わりのできるタイミングであり、市場も製品も全部見直すつもりで新しいビジネスモデルに取り組んだ。
 方針転換、設備の入れ替え、本社移転と、「いろいろなことが重なったので正直つらい時期もあったが、結果、人心を一新することができたと思う。残った人たちのモチベーションも高く、新しい取り組みにも積極的に動いてくれたので、すべてがまだ順調とは言えないが21世紀型の企業に脱皮できたことを感謝している」と、社員への温かい思いがにじみ出た言葉であった。
 顧客の大半が大手企業で、宣伝費が年々減少する上に印刷は外の輪転へと流れているため、枚葉を中心とした自社設備と顧客のミスマッチがだんだん大きくなることを懸念。このままでは、顧客から頂いた仕事で工場を回すことはムリだと判断した。
そこで枚葉4色機1台まで減らし、工場を製造受注として同業者の協力工場として動かすことを決意。戦略の方向転換をした。

 ただ、製造受注と言っても単なる下請け工場にならないため、ほかでは簡単にできない品質を追求する意味からも美術出版物に力を入れた。京都の祠(ほこら)の金色や夕日など、なかなか出せない色を厳しい目をもった先生やプロデューサーに認めてもらったことや、他地域の印刷会社との交流を積極的に行った結果、美術印刷自体の受注は決して多くはないが、「土山ブランド」として信頼を得ることができた。今は稼働率を上げ品質も上げるために6色機を導入している。営業と工場を切り離す戦略は見事に成功し、製造受注はこの1~2年で数倍の売り上げに達している。

 一方、営業は印刷をコアとしながらもインターネット、携帯電話など、幅広く顧客のお役立ちの部門として独立できるクロスメディアカンパニーが目標だという。新しい時代を切り開くのは「情報」と「人材」である。本筋の情報との接触が大事で、細かい情報や断片情報に一所懸命になると情報の隘路(あいろ)に入ってしまう。その点、PAGEは総合的な情報を取るには最適と考え、社員には新しいビジネスのネタを必ず取ってこい、と言っている。今は「ロゴQ」のビジネス化に取り組んでいる。

【新ビジネス想像のクロスメディアカンパニーへ】

 印刷とクロスメディアカンパニーとは経営的に全く違うものだと考える。クロスメディアビジネスのモデルがあるわけではないが、このような新しいメディア環境に即してストーリーを創造することが大切である。例えば以前は、テレビがインパクト(印象)メディアで、印刷は情報メディアであったが、昨今ではウェブに印刷以上の情報が掲載されており、印刷が逆にインパクトメディアの役目を必要とされているかもしれない。AIDMAからAISASへと変化する中でのメディアの新しい役割や開発が必要になっている。

 最近、若者がモノを買わないと言われているが、AISASの対象を「モノ」ではなく「コト」に変えないといけない。経験消費という言葉があるが、空間で経験させて擬似消費をさえることで、実際への購買(消費)へとつながるのではないか(コトからモノへ)。その流れに適したメディアの開発が必要である。Attention(注意)に適したメディア、Interest(興味)に強いメディアは何かを、空間メディアも印刷メディアもひっくるめて創造していくのが、クロスメディアカンパニーではないだろうか。
 今までは購買させることに多くの力が投入されていたが、これからは継続してもらうことや口コミで伝えてもらう仕組みへマーケティングの目が注がれるだろう。大量にモノを作りばらまく20世紀型モデルから、これからは人口や需要が減少する中で、全く新しい発想でのビジネスを考えなければならないと力強く語った。

 同社の新しいチャレンジの1つが、印刷通販「プリントプリウス」である。小さい仕事を数多く、幅広い商材をインターネット通販として扱う事業である。リピートや少部数、一般消費者向けでできるだけコストをかけず、早く、安くといったニーズには幅広く応えていく。その一方、ヘキサクロームやFMスクリーンといった高品位なニーズにも応えていく。このターゲットと品質の「明確さ」がブランド強化には重要である。

 地元に貢献するために商工会や経済同友会で自らが活動するとともに、京都の美術書の製作には積極的に関わっていきたいと語る。100周年向かって具体的に決定していることはないが、営業の分社化や社名変更なども視野に入れているという。声を上げれば社員も大いに賛成してくれるだろうと笑みを浮かべる。

(杉山慶廣)